「いまどき、のジョシコーセーって、すげぇのな」
 彼女達の口調を捩って、ノセは苦笑と共にふざけた。固まっていた空間が解ける。助け船とばかりに智姫は真っ先に喰い付いた。
「イマドキって…。自分だって同世代じゃない」
 妙に呆れ返った声になってしまったが、場を解凍する為ならご愛嬌だ。
「同世代だろうが皆一緒なわけやない。現に、ちー達は違うやろ?俺には理解できんし、あんな発言される方が引くわぁ」
「まぁ、それはそうだけど」
 自分と同じ感覚の人が身近にいてほっとする。人それぞれだと認めるとしても、どうにも自分には苦手分野だ。
「ちーちゃんね、恰好いいんだよぉ」
 能天気な口調は詩姫だ。今の流れで何の話だ、と他四人が詩姫に視線を送る。それに気づいたかどうかは判然としないが、気に留めた様子もなく続けた。
「男の子相手にバリバリやってるんだもん」
 ね、と同意を向けてくる妹に、「一体なんの話なの」と問おうとして、ひと足早くノセが口を開いた。
「どっちの意味?えっちな方にもとれるんやけど」
 完全なるからかい体勢にも関わらず、詩姫は真に受けて顔を赤くした。
「生徒会長としてだよっ」
 込み上げた羞恥を必死にごまかそうとする様は可愛い。
「ちーならばったんばったん薙ぎ倒してそうやな」
 どんなイメージだ、とむくれる。
 くくっと笑い声を立てたのは、沙月だ。反射的に睨もうとしていて、慌てて引っ込めた。遠慮なく感情をぶつけられるほどに智姫は仲良くない。詩姫から彼の人格の良さは結構聞かされているので、自分までもが親しい感覚になってしまいそうになる。
 ごめんごめん、と笑いを噛み殺している。
「鬼会長ってのはさすがにひどい通り名だよね」
 上の学年にまで通っている渾名なのか、と驚くと同時に腹立たしくもある。根源を見つける機会があれば懲らしめてやる、と密かに決意を固めたのは表面に出さない。
「鬼とは…。大層なもんやで」
 ノセは同情する風に見せかけて面白がっているのが有り体だった。
「武勇伝あんの?」
 智姫に問うたところで絶対に口を割らないと踏んでか、詩姫を見、沙月にも視線を転じた。
「上級生相手なのに怯むどころか喫煙してた奴に水ぶっかけて消火したって聞いたことある」
 沙月はにわかに信じ難いけどね、といった口調ではあったが、詩姫があっさり肯定したことで「へぇ」と感心した風な息を吐いた。向かいで口笛を吹いたのはノセだ。その隣に座る部長は驚き眼で智姫を凝視していた。
「あとね、喧嘩の仲裁なんてしょっちゅうでしょ。男の子同士の殴り合いでも飛び込んでくよねー。柔道かじってるから投げ飛ばしちゃえば大抵は場が鎮まるんだよね」
 何故か自慢げに詩姫は語る。それからー、と続けようとするので口を塞いだ。
「彼氏ができても変わらないあたり、いいよね」
 口を封じられた詩姫の代わりを務めるが如く、褒め言葉にはとても取れないことを褒めているかのように沙月は言う。彼氏を直接知っている人物なだけに、その物言いの受け取り方が難しい。
「彼氏できたんか」
 単語を拾ったのはノセだ。
「え、まぁ、うん。できた」
「そら、残念」
 けろっとノセは言う。どう返答すべきか判らず、口が半開きのまま窮した。冗談だと判っていて尚、巧い返しのひとつもできない自分が嫌になる。
「え、なになに。ノセくんって、ちーちゃんのこと、好きなの?」
 嬉しそうに喰い付くな、妹よ。とは声にならない。
 こんな冗談をさらりと言えるほどに成長したんだなぁ、と妙な感心をしてしまった。雅司と似通う部分の発見だ。が、そこは褒めるべき箇所ではない。
「詩姫」諌める響きで妹を見遣る。「どーしてそう単純に結びつけちゃうの。リップサービス的なものなんだよ」
 ようやと意識を立て直して呆れた様子で突っ込みを入れたのだが、
「遠からず正解や、詩姫」ノセは言下に肯定する。「もしかして前の試合ん時、ガン飛ばしてきた彼?つか、さっきもか。思わずついてくんなって意地悪してもぅた」
 けんもほろろに断っていたな、と思い出す。部活終了間際に決まったファミレスでの打ち合わせに秀司も参加表明してきたのに対して、「ヒラは不要」と喧嘩売ってるのかと勘繰りたくなる物言いで刎ね付けていた。
「意地悪するほど知り合ってるわけじゃないのに」
 生理的に受け付けないとかだろうか。そういう人嫌いの仕方はノセのイメージじゃない。
 ノセが秀司に睨まれた、と思うなら、それが理由になりきか、とは思う。身に覚えのないことで睥睨されたらきっと、誰だって嫌な気分になる。
「遠からず正解、ってゆったやろ。初恋の君やからねー。ちーは」
 どこまで本気がまるで読めない口調だ。まともに相手をしていては話が進まないな、と早々に見切りをつけ、沙月と部長に本題をふった。それで「練習試合の話をするんだったね」と全員が思い出したようだった。


[短編掲載中]