「え、あの」
 戸惑いを隠せずに露わにした華保を慌てて解放する。
「ごめんっ。びっくりするよね」
「なにやってんだよ、入沢」
 入沢の動きに注視していた勢揃いの目線が華保にも向けられていて、恥ずかしくなる。
「ごめんごめん。…舞阪華保さん、だよね?」
 照れ臭そうに、けれど嬉しそうに、入沢は真顔を作ろうとして、失敗していた。
 また?と慌てて記憶を捜索する。良尚同様、まっさらに忘れているのだとしたら、失礼極まりない。
「華保」良尚の落ち着き払った声がすっと割り込んだ。「華保は入沢を知らないよ」
 華保の混乱を察知して颯爽と解答を紡ぎ出す。
「あ…そう、なの?」
 露骨に安心したのが可笑しかったのか、正面に立つ入沢は噴き出した。
「俺が勝手に知ってるだけ。てか、東郷!舞阪さんと知り合いだなんて聞いてねーぞ」
「言ってないから当然だな」
「わざとだろっ!絶対わざとだっ」
 入沢は悔しがって喚く。華保には置かれている状況が把握できずにいた。どうやら自分は知らぬところで関わっているのだろう、くらいにしか。
「わざとで悪いか」
 良尚に悪びれた様子は皆無で、それが更に入沢を煽っていた。
「悪いに決まってんだろーが」
「俺の勝手だ」つらっと言い除ける。
「友達甲斐がないっ!――ね、舞阪さんもそう思わない!?」
 いきなり矛先を向けられ、たじろぐ。曖昧に小首を傾げ誤魔化した。そんな華保の顔をじっと見つめてくる入沢はじりじりと近づいてきてもあって。
「え、と…?」
 ぴたりと無言になられて近づいてこられた上に凝視されると反応に困る。
「舞阪さんさ、彼氏いる?」
「へ?」
「いるの?いないの?」
 強引な問い掛けに圧され、とりあえず逃れる為に正直に返答する。
「いない、けど…」
「まじで!?じゃー俺なんかどう?俺もフリー」
 合コンに参加したことはないけれど、こんなノリなんだろうな、と想像してみる。
「や、あの」
 ちらりと良尚に視線を送る。嘘は言ってない。言ってないが、ばつが悪い。返事がうやむやになったままだったと、苦い心地になる。
「残念だったな、入沢」
 よく通る声が割り込んだ。
 不機嫌そうに振り返った入沢は「なにがだよっ」と噛み付く勢いだ。
「華保、好きな奴いるから。――な?」
 最後は華保に視線を移して問い掛ける。
 またもや返答に困るふり方をされ、言葉に詰まった。
「本当に!?」入沢は喰い付く。
「あー、いやぁ…」
 これに嘘は言えない。かと言って、こんな大勢のいる前で発表することでもない。
 再び華保に向き直った入沢に圧され、助け船を求めて良尚を見た。
 入沢は再び良尚に不興声をぶつけた。
「東郷は知ってんのかよっ?」
「俺」


[短編掲載中]